第55期名人戦



谷川が4勝2敗で、名人位奪還!
劇的な番勝負の末に、谷川が17世名人の称号を獲得した!

名人戦7番勝負

      
 1  2  3  4  5  6  7 
羽生善治名人 ●  ○  ●  ●  ○  ●   
谷川浩司竜王 ○  ●  ○  ○  ●  ○   

名人戦7番勝負第6局

初志貫徹の原始棒銀が雌雄を決する!
谷川逆転で名人位を奪い取る!

名人戦第6局 6月10〜11日

群馬県伊香保町「福一旅館」にて
先手:羽生善治名人  対  後手:谷川浩司竜王

戦型:後手急戦棒銀
結果:124手で谷川逆転勝利!
残り時間:羽生    8分
     谷川   12分

第6局1日目 6月10日

9分間じっと黙想にふけった羽生が第一手を着手し、
運命の第6局がはじまった。
羽生は▲7七銀の前に▲6六歩と指し、
「棒銀に来るならどうぞ」とばかりに谷川に誘いをかける。
谷川は51分の長考ののちに、▽8五歩と突き出し、
大事な一番に急戦棒銀で行く意志を示した。
名人戦での急戦棒銀は過去にあまり前例がない。
羽生としては棋界最高峰の名人の意地にかけても、
棒銀で潰されるわけにはいかない。
水面下で激しい闘志がぶつかる。

素人戦法と揶揄される棒銀を羽生がどう受けるのか、
注目が集まった。
慎重な駒組みが続けられ、
谷川が▽6四歩とあくまで急戦で行くことを匂わせたところで、
21手目を羽生が封じた。

第6局2日目 6月11日

矢倉囲いを急ぐ▲6七金右が羽生の封じ手だった。
谷川は▽9五銀から一直線の攻めを選び、戦闘が開始された。
谷川の攻め筋に、控室は騒然となった。
銀をただ捨て、▽8八歩と桂頭を叩いたのが、斬新な攻め筋!
局後の検討でもこの順は十分成立しているようだ。
羽生の陣形を崩し、谷川が早くもポイントを挙げ主導権を握った。
急戦棒銀成功!

しかし、直後の▽3五歩が羽生の▲4六銀(打)を見落とした疑問手となり、
形勢は大きく羽生に傾いた。
二枚の銀が谷川陣を圧迫し、有効な攻め筋をようとして与えない。
このあたり、「負けを覚悟した」と谷川は語っている。

それでも谷川は腰を割らなかった。
土俵際で踏ん張り、▽3九角から攻め合いに活路を見いだす。
難解な終盤戦、羽生のリードは徐々に消えていった。
一手指すごとに、谷川が猛烈な追い上げを見せる。
流れは変わった。風は谷川に吹いていた。
▽6七銀が入り、形勢は逆転。
光速の寄せが鮮やかな逆転勝利を呼び込んだ。
羽生、無念の投了。
ハンカチを口元に押し当てる谷川の瞳が、
わずかに潤んだ。

羽生の七冠制覇を許した屈辱の王将戦から一年半・・・
無冠から棋界最高峰への劇的な帰還を、谷川は果たした。

棋譜は毎日新聞から公開されています。

また局面を含んだ解説が、日本将棋連盟の「第55期名人戦第6局速報」に掲載されています。

名人戦7番勝負第5局

羽生マジックが谷川の見落としを誘う!
羽生、土壇場で踏ん張る!

名人戦第5局 5月29〜30日

北海道函館市「ホテル函館ロイヤル」にて
先手:谷川浩司竜王  対  後手:羽生善治名人

戦型:角換り腰掛銀
結果:102手で羽生快勝!
残り時間:谷川   34分
     羽生   12分

第5局1日目 5月29日

谷川の初手▲7六歩に対し、羽生は長らく端座し続けた。
33分の長考の末に、▽8四歩。
その間、角番に立たされた羽生の胸中にはなにが去来したのだろうか。
両者の意地の張り合いか、将棋は三度角換りとなった。
相腰掛銀から、羽生は6筋の位をとる作戦を明らかにし、
専守防衛の構えをみせた。
32手目を羽生が封じた。

第5局2日目 5月30日

羽生は動かなかった。
谷川の攻めを誘い、金を上げたり下げたりと徹底した待機策に出る。
局面は膠着し、千日手の予想が控室の大勢を占めた。
しかし谷川は先手番での千日手を潔しとせず、
一旦は守りについた右金を4七へ進め、▲4五歩から討って出た。
虎視眈眈とカウンターパンチを狙っていた羽生は、
4筋で駒を清算すると、▽8五歩から反撃ののろしを上げた。

このあとの数手は、控室の検討をしのぐ高度な駆け引きが
両者の読みの中で展開されていた。
谷川ペースで局面が進むなか、
意表を突く▽4四桂が、久々に登場した羽生マジックとなった。
これで直線的な攻めあいが曲線となり、谷川の動揺を誘う。
数手後に谷川らしくない見落としが出た。
羽生の▽6七角がはいり、局面はいっきょに羽生有利へと傾く。
その後も谷川は受けを誤り、大勢は決した。

102手で、谷川投了。
羽生は土壇場で踏ん張った。
しかし、羽生にとっては依然角番に立たされる苦しいシリーズが続く。

棋譜は毎日新聞から公開されています。

また局面を含んだ解説が、日本将棋連盟の「第55期名人戦第5局速報」に掲載されています。

名人戦7番勝負第4局

急戦矢倉から谷川攻め勝つ!
17世名人についに王手!

名人戦第4局 5月19〜20日

長崎県「雲仙宮崎旅館」にて
先手:羽生善治名人  対  後手:谷川浩司竜王

戦型:後手急戦矢倉
結果:102手で谷川快勝!
残り時間:羽生    3分
     谷川   24分

第4局1日目 5月19日

先手の羽生が矢倉の注文をつけると、
谷川が素直にこれに応じ、第4局は相矢倉の一戦となった。
全日プロでも見せた谷川の原始棒銀を警戒してか、
羽生は旧定跡通り、6六歩よりも7七銀を優先。
対する谷川は角道を通したまま戦う急戦矢倉を目指した。
早々に工夫を見せたのは谷川。
序盤早々に5筋の歩を交換し、局面の主導権を握った。
その直後、羽生は▲4六角と出て飛車の小びんを狙ったのだが、
羽生は終始この手を後悔することになる。
27手目を羽生が封じた。

第4局2日目 5月20日

封じ手は▲5六歩。
局面を押さえ、羽生は後手の動きを封じる作戦に出た。
だが谷川が構わず中央突破を目指したため、
ともに玉を剥き出しにしたまま、中央で飛車がにらみ合う展開となった。
谷川が戦端を開き、中央をめぐる激しい攻防戦がはじまった。

ひたすら局面を押さえようとしていた羽生は、方針を変え、
▲7五歩から勝ちにいき、局面は緊迫の度合いを高めた。
双方の飛車銀桂が天王山に集まる文字どおりの白兵戦となった。
一歩も引けない激しい白兵戦のさなか、羽生は一転して戦場から
飛車を遠ざけるが、これが緩手となった。
谷川の▽3三角が、遊んでいた角を蘇生させる地味な好手だった。
羽生が「しびれちゃいました」と語るとおり、
ここからは谷川の独壇場となる。

羽生は▽5八歩以下懸命の粘りを見せるが、
谷川が乱れることなく局面を収束した。

後手番を制し、ついに3勝1敗、
谷川が悲願の17世名人の座にあと1勝と迫った。

棋譜は毎日新聞から公開されています。

また局面を含んだ解説が、日本将棋連盟の「第55期名人戦第4局速報」に掲載されています。

名人戦7番勝負第3局

前進、前進、そして光速の寄せ!
谷川、見切って攻め勝つ!

名人戦第3局 5月7〜8日

愛知県蒲郡市西浦温泉「銀波荘」にて
先手:谷川浩司竜王  対  後手:羽生善治名人

戦型:角換り後手棒銀
結果:69手で谷川快勝!
残り時間:谷川 1時間15分
     羽生    30分

第3局1日目 5月7日

前局の雪辱を期して、谷川は得意の角換りに誘導する。
羽生もそれに応え、戦型は前局に継いで角換りとなった。
後手番の羽生が積極的に棒銀に出ることを明らかにし、
対する谷川の作戦に注目が集まる。
右玉の含みを残し、谷川が柔軟に▲5八金とあがったところで、
羽生の大長考がはじまった。
そのまま2時間8分の長考の末に、
26手目を羽生が封じた。

第3局2日目 5月8日

羽生の封じ手は穏やかな▽4二玉。
大長考の理由は▽9五歩からの仕掛けを読んでいたため(感想戦での発言)。
膨大な変化の果てに、仕掛けを断念しての一着が指され、
二日目の対局がはじまった。

先に仕掛けたのは羽生。
気合いよく、▽7五歩から攻めを開始した。
それに対する谷川の応手は、▲6八玉。
右玉ではなく、戦場に自ら近づいていく強気の受けだ。
その直後、腰掛銀から▲4五桂と、
単独で桂をはね攻めを開始したのが、意表をつく好着想となった。

定跡書にはけして出てこない攻め筋だ。
ここから谷川の会心の攻めがはじまる。

角の打ち込みに対し、ひとめ危険な2五 へ飛車を逃がしたのが、
桂跳ねに続く絶妙手!
飛車の横利きの威力が絶大で、
羽生は攻めあいに活路を見いださざるをえなくなった。
馬をつくってみたものの、2九飛を含みに銀を引かれ、
羽生の馬は働く場をなかなか得られない。
▽8六歩からの攻めあいも、
そのあとの変化を読み切った谷川に手抜いて攻め込まれ、
羽生陣は崩壊。
最後は飛車を捨てて豪快に寄せきる光速の寄せが炸裂!

69手という短手数で、羽生の投了となり、
谷川ファンにとっては、谷川将棋の魅力が余すところなく発揮された
こたえられない一局となった。
谷川が星一つ先攻した。

棋譜は毎日新聞から公開されています。

また局面を含んだ解説が、日本将棋連盟の「第55期名人戦第3局速報」に掲載されています。

名人戦7番勝負第2局

谷川、勝負手を逃す!
谷川の十八番角換りを羽生が制する!

名人戦第2局 4月26〜27日

東京都江東区「ホテルイースト21」にて
先手:羽生善治名人  対  後手:谷川浩司竜王

戦型:角換り腰掛銀
結果:79手で羽生快勝!
残り時間:羽生 24分
     谷川 30分

第1局1日目 4月26日

羽生が3手目に▲7八金と上がり、
矢倉でいくのか角換りでいくのかを、谷川に聞いた。
谷川は▽8五歩から角換りを強要する。
竜王戦第2局以来の角換り対決となった。

違っていたのは谷川が棒銀ではなく腰掛銀へと手を進めたこと。
序盤から長考が繰り返され、指し手はいっこうに進まない。
2時間近い長考の末に、羽生が27手目を封じた。

第2局2日目 4月27日

封じ手は▲6六歩。
長考の理由は、この手に対する谷川の速攻を読んでいたためか。
谷川は左銀を4四に繰り出し、前進流ならではの攻勢をみせた。
10日ほど前に行われた全日本プロトーナメント決勝で、
森下に指され敗れた形とほぼ同じだ。
予定通り中央で銀交換がなされた直後、
封じ手のときから読んでいたと思われる羽生新手が指された。
▲4五角!

予期していなかった一手に、今度は谷川が2時間を超える長考に沈んだ。
「角を打たれて指す手がわからなくなった」
谷川は▽4六銀とあくまで強気の攻めを押し通す順を選んだ。
2筋の突き捨てから馬をつくられ、
谷川は攻めを催促される形となる。
攻め足が止まったら、もはや谷川の勝ちはない。
羽生は自陣にじっと銀を補強し、
谷川の攻めを受け止める。

夕食休憩後の▽9二角が晩期となった。
▽6二飛でまだまだ攻めが続いていた。
谷川の攻めを切らしたそのあとは、羽生の独壇場となった。
谷川苦心の▽3七角も功を為さず、
羽生の鮮やかな寄せの前に屈した。
勝負は振り出しに戻された。

棋譜は毎日新聞から公開されています。

また局面を含んだ解説が、日本将棋連盟の「第55期名人戦第2局速報」に掲載されています。

名人戦7番勝負第1局

谷川の信用度が羽生を誤らせる!
10年ぶりの同一局面、谷川先勝!

名人戦第1局 4月10〜11日

大阪府堺市茶室「伸庵」にて
先手:谷川浩司竜王  対  後手:羽生善治名人

戦型:相矢倉(後手うそ矢倉)
結果:99手で谷川先勝!
残り時間:谷川 1時間8分
     羽生    5分

第1局1日目 4月10日

谷川の17世名人襲位が確定するか、
それとも羽生が棋界第一人者としての地位を守り通すかいなか、
注目の第55期名人戦が、谷川の初手▲7六歩からはじまった。

羽生が角道を止め、振飛車模様の出だしとなると、
谷川は2五歩を入れずに、あえて▲4八銀と構え、
矢倉か振飛車かの選択権を羽生に渡した。
羽生の選択は居飛車矢倉。

谷川は左金を動かす前に▲3六歩を入れ、
急戦の構えを見せた。

米長矢倉の早仕掛けを警戒し、羽生が慎重な指し手を続ける。
▽7三桂とはね、谷川の▲6六銀からの急戦をけん制したところで、
31手目を早々に谷川が封じた。

第1局2日目 4月11日

封じ手は▲6六歩。
谷川の角筋が止まり、これで急戦はなくなった。
それを見た羽生は長考に沈み、次の▽6四歩に1時間近く費やしている。

以後矢倉への入城を目指し、両者ともに軽快に手が進む。
羽生が入城を果たし、ここで仕掛けるか否か、
谷川が選択権を握った。

谷川は▲4五歩から開戦。
軽い応戦のあと、羽生も▽6五歩から反撃に転じた。
ここまでは、1988年の新人王戦記念対局と同一局面。
そのときは谷川名人が後手番、羽生新人王が先手番をもっていた。

変化に出たのは羽生。
飛先を切ったあと角交換を強要し、勢いよく飛車を進ませたのだが・・・。
そのタイミングを捉え、谷川が2筋から総攻撃に移った。

羽生玉頭に綾をつけ、質駒の桂をとってからの▲1五桂が強烈。
「すでに将棋は終わった」との声も、控室では出はじめていた。
早くも終盤に突入。
谷川優勢・・・。
しかし、受けに羽生が▽3二角を放つと、
たちまち難解な別れとなった。

詰めろになっているのかどうか、
一手ごとに膨大な変化が潜んでいる。
やがて問題の局面を迎える。(谷川の73手目、▲4一銀の局面)
ひと目「詰めろ」のはずの4一銀ではあるが、
どう動かしても羽生玉は詰まない。
控室では、4一銀は詰めろではない、と結論。
形勢逆転の声が強くなっていった。

羽生が強く攻め込めば、将棋は完全に逆転する。
のちに谷川は4一銀を打ったときに、
はじめてこの手が詰めろでないことに気づいたと語っている。
緊張の一瞬、羽生の着手は受けに回る▽6三飛だった。

羽生もまた、4一銀が詰めろだと錯覚していたのだ。
谷川の「光速の寄せ」に対する信頼度が、
羽生の錯覚を呼んだ。
谷川先勝! 17世名人の座に向けて、幸先よいスタートを切った。

現在の局面、及び棋譜は毎日新聞から公開されています。


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