第55期名人戦 |
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羽生善治名人 | ● | ○ | ● | ● | ○ | ● | |
谷川浩司竜王 | ○ | ● | ○ | ○ | ● | ○ |
初志貫徹の原始棒銀が雌雄を決する!
谷川逆転で名人位を奪い取る!
戦型:後手急戦棒銀
結果:124手で谷川逆転勝利!
残り時間:羽生 8分
谷川 12分
素人戦法と揶揄される棒銀を羽生がどう受けるのか、
注目が集まった。
慎重な駒組みが続けられ、
谷川が▽6四歩とあくまで急戦で行くことを匂わせたところで、
21手目を羽生が封じた。
しかし、直後の▽3五歩が羽生の▲4六銀(打)を見落とした疑問手となり、
形勢は大きく羽生に傾いた。
二枚の銀が谷川陣を圧迫し、有効な攻め筋をようとして与えない。
このあたり、「負けを覚悟した」と谷川は語っている。
それでも谷川は腰を割らなかった。
土俵際で踏ん張り、▽3九角から攻め合いに活路を見いだす。
難解な終盤戦、羽生のリードは徐々に消えていった。
一手指すごとに、谷川が猛烈な追い上げを見せる。
流れは変わった。風は谷川に吹いていた。
▽6七銀が入り、形勢は逆転。
光速の寄せが鮮やかな逆転勝利を呼び込んだ。
羽生、無念の投了。
ハンカチを口元に押し当てる谷川の瞳が、
わずかに潤んだ。
羽生の七冠制覇を許した屈辱の王将戦から一年半・・・
無冠から棋界最高峰への劇的な帰還を、谷川は果たした。
棋譜は毎日新聞から公開されています。
また局面を含んだ解説が、日本将棋連盟の「第55期名人戦第6局速報」に掲載されています。
名人戦7番勝負第5局
羽生マジックが谷川の見落としを誘う!
羽生、土壇場で踏ん張る!
戦型:角換り腰掛銀
結果:102手で羽生快勝!
残り時間:谷川 34分
羽生 12分
このあとの数手は、控室の検討をしのぐ高度な駆け引きが
両者の読みの中で展開されていた。
谷川ペースで局面が進むなか、
意表を突く▽4四桂が、久々に登場した羽生マジックとなった。
これで直線的な攻めあいが曲線となり、谷川の動揺を誘う。
数手後に谷川らしくない見落としが出た。
羽生の▽6七角がはいり、局面はいっきょに羽生有利へと傾く。
その後も谷川は受けを誤り、大勢は決した。
102手で、谷川投了。
羽生は土壇場で踏ん張った。
しかし、羽生にとっては依然角番に立たされる苦しいシリーズが続く。
棋譜は毎日新聞から公開されています。
また局面を含んだ解説が、日本将棋連盟の「第55期名人戦第5局速報」に掲載されています。
名人戦7番勝負第4局
急戦矢倉から谷川攻め勝つ!
17世名人についに王手!
戦型:後手急戦矢倉
結果:102手で谷川快勝!
残り時間:羽生 3分
谷川 24分
ひたすら局面を押さえようとしていた羽生は、方針を変え、
▲7五歩から勝ちにいき、局面は緊迫の度合いを高めた。
双方の飛車銀桂が天王山に集まる文字どおりの白兵戦となった。
一歩も引けない激しい白兵戦のさなか、羽生は一転して戦場から
飛車を遠ざけるが、これが緩手となった。
谷川の▽3三角が、遊んでいた角を蘇生させる地味な好手だった。
羽生が「しびれちゃいました」と語るとおり、
ここからは谷川の独壇場となる。
羽生は▽5八歩以下懸命の粘りを見せるが、
谷川が乱れることなく局面を収束した。
後手番を制し、ついに3勝1敗、
谷川が悲願の17世名人の座にあと1勝と迫った。
棋譜は毎日新聞から公開されています。
また局面を含んだ解説が、日本将棋連盟の「第55期名人戦第4局速報」に掲載されています。
名人戦7番勝負第3局
前進、前進、そして光速の寄せ!
谷川、見切って攻め勝つ!
戦型:角換り後手棒銀
結果:69手で谷川快勝!
残り時間:谷川 1時間15分
羽生 30分
先に仕掛けたのは羽生。
気合いよく、▽7五歩から攻めを開始した。
それに対する谷川の応手は、▲6八玉。
右玉ではなく、戦場に自ら近づいていく強気の受けだ。
その直後、腰掛銀から▲4五桂と、
単独で桂をはね攻めを開始したのが、意表をつく好着想となった。
定跡書にはけして出てこない攻め筋だ。
ここから谷川の会心の攻めがはじまる。
角の打ち込みに対し、ひとめ危険な2五 へ飛車を逃がしたのが、
桂跳ねに続く絶妙手!
飛車の横利きの威力が絶大で、
羽生は攻めあいに活路を見いださざるをえなくなった。
馬をつくってみたものの、2九飛を含みに銀を引かれ、
羽生の馬は働く場をなかなか得られない。
▽8六歩からの攻めあいも、
そのあとの変化を読み切った谷川に手抜いて攻め込まれ、
羽生陣は崩壊。
最後は飛車を捨てて豪快に寄せきる光速の寄せが炸裂!
69手という短手数で、羽生の投了となり、
谷川ファンにとっては、谷川将棋の魅力が余すところなく発揮された
こたえられない一局となった。
谷川が星一つ先攻した。
棋譜は毎日新聞から公開されています。
また局面を含んだ解説が、日本将棋連盟の「第55期名人戦第3局速報」に掲載されています。
名人戦7番勝負第2局
谷川、勝負手を逃す!
谷川の十八番角換りを羽生が制する!
戦型:角換り腰掛銀
結果:79手で羽生快勝!
残り時間:羽生 24分
谷川 30分
違っていたのは谷川が棒銀ではなく腰掛銀へと手を進めたこと。
序盤から長考が繰り返され、指し手はいっこうに進まない。
2時間近い長考の末に、羽生が27手目を封じた。
予期していなかった一手に、今度は谷川が2時間を超える長考に沈んだ。
「角を打たれて指す手がわからなくなった」
谷川は▽4六銀とあくまで強気の攻めを押し通す順を選んだ。
2筋の突き捨てから馬をつくられ、
谷川は攻めを催促される形となる。
攻め足が止まったら、もはや谷川の勝ちはない。
羽生は自陣にじっと銀を補強し、
谷川の攻めを受け止める。
夕食休憩後の▽9二角が晩期となった。
▽6二飛でまだまだ攻めが続いていた。
谷川の攻めを切らしたそのあとは、羽生の独壇場となった。
谷川苦心の▽3七角も功を為さず、
羽生の鮮やかな寄せの前に屈した。
勝負は振り出しに戻された。
棋譜は毎日新聞から公開されています。
また局面を含んだ解説が、日本将棋連盟の「第55期名人戦第2局速報」に掲載されています。
名人戦7番勝負第1局
谷川の信用度が羽生を誤らせる!
10年ぶりの同一局面、谷川先勝!
戦型:相矢倉(後手うそ矢倉)
結果:99手で谷川先勝!
残り時間:谷川 1時間8分
羽生 5分
羽生が角道を止め、振飛車模様の出だしとなると、
谷川は2五歩を入れずに、あえて▲4八銀と構え、
矢倉か振飛車かの選択権を羽生に渡した。
羽生の選択は居飛車矢倉。
谷川は左金を動かす前に▲3六歩を入れ、
急戦の構えを見せた。
米長矢倉の早仕掛けを警戒し、羽生が慎重な指し手を続ける。
▽7三桂とはね、谷川の▲6六銀からの急戦をけん制したところで、
31手目を早々に谷川が封じた。
以後矢倉への入城を目指し、両者ともに軽快に手が進む。
羽生が入城を果たし、ここで仕掛けるか否か、
谷川が選択権を握った。
谷川は▲4五歩から開戦。
軽い応戦のあと、羽生も▽6五歩から反撃に転じた。
ここまでは、1988年の新人王戦記念対局と同一局面。
そのときは谷川名人が後手番、羽生新人王が先手番をもっていた。
変化に出たのは羽生。
飛先を切ったあと角交換を強要し、勢いよく飛車を進ませたのだが・・・。
そのタイミングを捉え、谷川が2筋から総攻撃に移った。
羽生玉頭に綾をつけ、質駒の桂をとってからの▲1五桂が強烈。
「すでに将棋は終わった」との声も、控室では出はじめていた。
早くも終盤に突入。
谷川優勢・・・。
しかし、受けに羽生が▽3二角を放つと、
たちまち難解な別れとなった。
詰めろになっているのかどうか、
一手ごとに膨大な変化が潜んでいる。
やがて問題の局面を迎える。(谷川の73手目、▲4一銀の局面)
ひと目「詰めろ」のはずの4一銀ではあるが、
どう動かしても羽生玉は詰まない。
控室では、4一銀は詰めろではない、と結論。
形勢逆転の声が強くなっていった。
羽生が強く攻め込めば、将棋は完全に逆転する。
のちに谷川は4一銀を打ったときに、
はじめてこの手が詰めろでないことに気づいたと語っている。
緊張の一瞬、羽生の着手は受けに回る▽6三飛だった。
羽生もまた、4一銀が詰めろだと錯覚していたのだ。
谷川の「光速の寄せ」に対する信頼度が、
羽生の錯覚を呼んだ。
谷川先勝! 17世名人の座に向けて、幸先よいスタートを切った。
現在の局面、及び棋譜は毎日新聞から公開されています。